【文化財】旧松坂御城番長屋 西棟保存修理 詳細

伊藤建設㈱では初めてとなる重要文化財の大規模な工事でした。
平成20年9月1日~平成22年2月25日 約1年と6ヶ月をかけての工事。
調査に時間をかけ、既存のものを出来るだけ使用する事もあり手作業で行われる作業がたくさんありました。

改修工事期間中は、歴史との遭遇がたくさんあり、教科書では学べない歴史を学びました。

押入れの壁には、明治初期の新聞紙が貼られていたり 建設された時代の土に触れたりと 歴史が得意ではない私でさえ目を輝かせてしまいましたよ。

旧松阪御城番とは
三重県松阪市殿町に所在する、旧松坂御城番長屋は、文久3年(1863)、松坂城警護の為、新たに松坂御城番職が設けられ、旧松坂城南東の三の丸に御城番武士20家族の居宅として建てられ、今もなお、家名が絶えないようにとご先祖様の意思を守り 子孫の方々が今も変わらず御城番屋敷で生活してみえます。

当時の雰囲気が残っている
御城番屋敷は約200m弱。
御城番長屋は東と西と2棟からなり、小路を挟んで南北に相対して建っています。
東棟は桁行90.9m、西棟は桁行83.6mで共に平屋、桟瓦葺、背面に角屋(つのや)が付属しており、各棟との1戸あたりの間口5間を基準として、東棟10棟、西棟9戸が今もなお建ち並んでいます。
長屋一軒ずつの大きさは間口5間、奥行5間の正方形平面に裏庭に突き出した角屋で形成されていて、棟方向には正面に向かって右から左へ1間の通り土間、1間半の「6畳」、2間の「8畳」、半間の「床」と「押入」に区切られ棟と直角方向には道路側から奥へ「前縁」、「前8畳」、「後8畳」、「後縁」と区切られています。
御城番屋敷の石畳の通りは、そのまま松阪城跡の正門へとつながります。

20110830135500ad6【正面:松阪城跡】

 

 

 

20110830135500181【松阪城跡を背にして松阪工業を眺める】

 

 

 

着工前
H20.9月~11月頃撮影

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この写真達は、一般公開されている西棟1(一番松阪城跡側)の部分です。
建物の周囲を緑の塀が取り囲み 塀をすり抜けると 褐色した木製の建具と漆喰の壁が飛び込んできます。
玄関までのアプローチ横には コケ・石の灯篭・千両などが配置されたお庭があります。
ほとんどのお部屋は、畳敷きになっており広縁(石畳側)や裏側の掃き出し窓からは趣のある庭園を眺めることが出来ます。
梁などの木は、当初から変わっていないのでしょう黒光りしており、釜(炊事場)があった場所の木はススで染まっていました。

施工状況
作業が本格的に動き出したのは、年明け平成21年の1月下旬からです。

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まず最初に内部の仕上げや建具等の取外し、運び出し、解体、植栽移植作業から始まった御城番修繕工事。
解体工事を進めていくなかで 歴史の1ページを発見

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押入れの中から発見したのは、明治時代の新聞絵がとってもレトロ
畳と下地材を外して見つかったのが、囲炉裏です。真ん中の囲炉裏は少し新しいかなぁ…。
右側の囲炉裏は、建設当初からあったと思われるとの事でした

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屋根改修工事の状況です。
今回の修繕工事においてのメインの1つである工事です。
既存の瓦を石畳側に出来るだけ使用するため、一枚一枚選別しながら手作業で丁寧に降ろされました。
降ろされた瓦は、洗浄を行い再び葺く予定です。
屋根の下地材(野地板)等を全て取外したので、空がとってもキレイにみえています。

20110830152602efb 季節が変わるのは早いものです。
春が来ました。
御城番の石畳から松阪城を眺めると サクラが満開
お弁当を持って スタッフ全員で昼食を頂きました

 

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ポコポコと竪穴式住居のように穴が開いているのは、基礎石を据える為の準備です。

 

穴の中に敷き詰めた砕石をしっかり締まり隙間なく詰めています。
人の力と、昔ながらの工具でドォンドォン

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大工さんが棟木の加工中
丸太を削っています、屋根の一番高ぁ~い部分 てっぺん に使われる木です。
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鉄骨がクレーンに吊られて お空をお散歩中です
鉄骨工事=耐震補強工事 こちらもメインの工事の1つです。
景観を崩さないよう 内部に補強を施しました。
これからも 御城番長屋があり続けて貰う為の大事な作業です。

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内部壁の竹の小舞組状況です。

 

20110830160101b1c今回の修繕工事は、国・県・市の補助金を受けての工事為 文化省をはじめ各省庁の方々が現場を確認にお越しになれました。

 

 

2011083016005929c 補強材料の搬入及び構造材の補強等の作業が完了した場所から順番に屋根瓦を葺き直し完成へと運びました。

 

 

いよいよ完成
約1年と6ヶ月の長い長い期間 たくさんの工程を経て 完成となりました。

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屋根の葺き替え完了。
裏側(松阪神社側)は、新しい瓦で仕上げました。
玄関側(石畳側)は、既存の瓦を再利用して仕上げました。

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玄関側(石畳側)より撮影した写真です。
工事期間中は、足場等により隠れていた玄関が久々に見えました。
褐色の建具や柱、真っ白な漆喰、障子紙が みていて 心が落ち着きます。

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トイレ・浴室等が配置されている裏庭に突き出した角屋部分(右端)がみえます。

御城番長屋の工事期間中、さまざまな経験や出会いがありました。

その中でもワタシが印象的だったのは現場で施工状況を確認している時に、毎日、石畳を通って散歩をされているお父さんとの出会い。
戦後の松阪の様子や子供の頃にみた御城番の様子等 たくさんの思い出を教えて貰いました。

『ココを通ると子供の頃の事を思い出すよ(笑)』とお父さん。

今はカタチが無くなってしまったものが沢山あるけれど こうして 変わらず残っているものが松阪には沢山ある。残すということは 意味があるんだなぁとお父さんとの出会いで改めて思いました。

西棟の修繕工事が終わり 続けて 東棟の修繕工事が始まりました。
平成22年10月 全ての工事が完了し 旧松坂御城番長屋に静けさが戻りました。

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